短編童話

駄菓子屋のおばちゃん

  • 著:funyara9(滝川雅晴)
  • 作成日:2007/06/10
    • 魔法のiらんど 童話/絵本 2007/06/17付 注目作品

本編

 町角に一軒の駄菓子屋がありました。いつもニコニコしている、一人のおばちゃんが座っておりました。夕暮れになると、学校帰りの子供達がちょくちょくお店にやって来ました。

「おばちゃん、これ、まけてんか」
「そうやね〜じゃあ、あんたは今日は、おごってあげるわ」
「じゃあ、ぼくにもまけてちょうだいよ」
「あんたには、この前まけてあげたやろ。今日はちゃんと金払いや」
 子供達は、おいしそうに駄菓子を食べました。
「うまいわ〜」
「おばちゃん、ありがとう!」
「じゃあね、おばちゃん。また来るわ」
「気い付けて帰るんやで!」
 子供達は、手を振りながら、うれしそうに帰って行きました。
「ほんまに、かわいい子供達やわ」
 おばちゃんは、お店から出ると、子供達をじっと見つめておりました。

 ふと振り向くと、母と子供の二人連れが店の前に立っておりました。
 子供は、母に言いました。
「かあちゃん、お腹減ったよ。 あのお菓子が欲しいよ」
「だめよ。お金ないんだから。がまんしなさい」
 母は、ひどくやつれておりました。
 おばちゃんは、お店に入ると、駄菓子を袋につめて子供にあげました。
「さあ、お嬢ちゃん。これをお食べ」
「あの、うち、お金ないんです」
「いいんですよ。お金、要りませから。こんなにかわいい子供のお腹をすかせちゃ、バチが当たりますもの。アハハハ」
「本当に、すみません。ありがとうございます」
「あんたも、なんだかやつれて。 あっそうや。ちょっと待ってって下さいね」
 おばちゃんは、お店の奥からダンゴと草もちを持ってきて、母に渡しました。
「あんた、何があったか知らんけど、ちゃんと食べて、元気だして頑張りや。こんなにかわいい子供もおるんやさかい」
「すいません、すいません! 本当に、ありがとうございます」
 母は、何度も深く頭を下げると、子供を連れて、とぼとぼと歩いていきました。
「あの親子、大丈夫かしらねえ。元気になってほしいわねえ」


 幾年かが過ぎて、年も暮れて寒くなった頃、お店に人がやってきました。
「あのう、すんません」
「今日はお店は終わりですよ!どなた?」
「あのう、ずいぶん前にお世話になった者なんですけど」
「あら、あんた!お久しぶりだわねえ。どうです?あれから元気にやってましたん?」
「はい。おかげさまで」
「今日は、お嬢ちゃんは来てへんのね。体はずいぶん大きゅうなったんとちゃいます?」
「ええ、おかげさんで娘の背は、うちと変わらんくらいになりました。今日は友達のとこに遊びに行ってるもんですから」
「そうですか、お嬢ちゃんに会いたいわねえ。それで、今日はいったいどないしはったんです?」


「こんな夜中におじゃまして、本当にすいません。うち、あなたに一言、お礼が言いたくて来たんです。実はうち、ずっと前、自殺しようと思ってたんです」
「えっ!」
「子供が生まれて間もないころに、うちのだんなが逃げてしもうたんです。うちのだんなは賭事が好きで、結構借金してたんです。それで、家に毎日借金取りが来て、家のお金が全部なくなってしもうたんです」
「あらそう、それはお気の毒にねえ」
「それでうち、朝から晩まで働いて、借金を少しずつ返してたんですけど、ある日突然、仕事先が潰れてしもうて、働く先が無くなったんです」
「そう、あんたずいぶん苦労してたんやねえ」
「ええ。そしたら、借金取りがどんどんしつこうなって、あげくのはてに、体を売れっていうんです。それでわたし、何もかも疲れてしもうて。いっその事、子供と一緒に死のうと思ってたんです」
「…」
「それでうち、自殺する所を探しに、子供を連れてうろうろ歩いてたんです。そんとき、ここの店の前を歩いてたんです。そしたら、あんなに親切にしてもうて。うち、あなたの生き生きした姿見て、もう一度がんばってみようって気になったんです。あのダンゴと草もち、ほんまにうまかった。うち、なんてお礼を言ったらええんかわかりません」
「何言ってんのよ。それより、あんたがこんなに元気になって、ほんまによかった。心配しとったんよ! それで、今はどうしてますの?」
「ええ。隣の町の工場で、パートの仕事見つけてやってたんです。そしたら、そこでええ人と知り合ったんです。しばらくつきあってたんですけど、その人、うちらのめんどう見てやるから、結婚しようて言うてくれたんです」
「へえ! あんた、よかったねえ」

 しばらくすると、母は手土産をおばちゃんに渡して、何度も深く頭を下げながら、お店を出ていきました。
「ふー、ほんまによかったわ。 あらっ!もうこんな時間や。そろそろ寝よか」
 おばちゃんは、布団をしいて中に入りました。
「こんな私でも、ちょっとは役に立ったんやな」
 おばちゃんは、心地よい気持ちで、昔の事を思い出しました。


 おばちゃんの名は、フミ子と言いました。
 フミ子の父と母は、幼い頃に病気で死にました。その後、フミ子は里子として、親戚の家に暮らしておりました。親戚の家の母は、いつもフミ子につらく当たりました。

「あんたはここで食べな!」
 食事の時になると、フミ子はいつも、離れた所で食べさせられておりました。食卓では、親戚の家の子供達が、おいしそうに食事を食べておりました。
「おばちゃん。わたし、もう少し食べたいです」
「里子のくせに、何言うてんねん。じゃああんた、ここの食器、全部洗って片付けて。それから、次はあそこの洗濯ね。全部干しといてよ! 終わったらご飯やるわ」
 フミ子は、もくもくと言われた通りのことをやりました。
「おばちゃん。わたし、食器を全部、片付けました。お洗濯を、全部干しました。だから、ご飯食べたいです」
「ああそう。じゃあ、はいこれ。食べ終わったら、あそこの部屋掃除ね。すぐにね!」
「あっ、はい」
 フミ子は、ご飯を急いで食べると、もくもくと言われた通りのことをやりました。
 夜になると、物置部屋に入って、薄い布団にもぐって眠りにつきました。

 次の日の朝、フミ子は学校に行きました。
 お昼休みの時間になると、生徒達は弁当を広げて、おいしそうに食べ始めました。ですが、フミ子には弁当がありませんでした。
 フミ子はお腹がへったので、トイレに行きました。そして、水道の水を飲みました。トイレから出ると、クラスの教室に戻りました。
 クラスの中の一人の男の子が、フミ子に話しかけました。
「なあ、フミ子。お前、どうしていっつも弁当ないんや?」
「私、食欲ないねん」
「ほんまか? お前、いっつもガリガリやん。ほんまは腹へってるんやろ」
「大きなお世話や! ほっといてよ」
「お前んとこのかあちゃんは、弁当も作ってくれへんのか。ハハハ。やーい、貧乏人」
 フミ子は、親戚の家での事を思い出しました。すると、涙がワッと出てきました。
「なんやお前、急に泣いたりして。頭おかしいんちゃう?」
 フミ子は、席を立つと、クラスの教室から走って出て行きました。そして、学校を出て公園に行きました。

「どうせ家に戻っても、またつらい目に合わなあかん。いっそのこと池に入って死ぬか。そしたら、どんなに楽やろ」
 フミ子は、池に向かってとぼとぼと歩いて行きました。


『ワンッ ワンッ』
 突然、犬の鳴き声がしました。振り向くと、一匹の犬がフミ子をじっと見つめておりました。
「なんよこの犬!私を食べる気? こんなガリガリ食っても、うまくないで」
 フミ子は、犬の顔をじっと見つめました。

「なんやあんた。真剣な顔して。私の事好きなんか?」
 フミ子は、犬に近寄ってしゃがみ込みました。そして、犬の背中をやさしく手でなでました。
 すると、犬はフミ子のスカートを口にくわえて、引っ張り始めました。
「こらっ、何すんねん! これは食べもんやないで」
 犬は、フミ子のスカートを引っ張りながら、公園の外に連れて行きました。
「あんた、私をどこへ連れていく気?」

 しばらくすると、川の側の土管の所にやって来ました。犬は、口からフミ子のスカートを離しました。
「ふう、やっと離してくれた! 何かここにあるんか?」
 犬は、土管の中に入って行きました。すると、そこに小さい犬がおりました。

「あら、ここにも犬がおるわ。かわいいなあ。これ、あんたの子供か?」
 犬は、小犬の足をなめました。すると、小さい犬は泣きそうなうめき声を上げました。
「あんた、もしかして、足を怪我してるんか?」
 フミ子は、小犬の足をさわりました。すると、小犬は体をビクッと震わせました。
「あんた、ここな、変に曲がっとるで。 足、骨折したんちゃう? あっ、そうや。ちょっと、待っててな」


 フミ子は、土管から出て道に出ると、町に向かって走っていきました。
「そういえば、ずっと前に、学校の先生が手を骨折した時に、木をそえて白い包帯をグルグル巻いとったな。どっかに包帯みたいなもん、落ちてないかなあ」
 フミ子は、町の中をうろうろとさまよいました。

「あっ、これ使えそうやな。もらっていこ」
 フミ子はゴミの中から白い服を拾いました。

「小犬ちゃん、お待たせ!ハアッ、ハアッ 今、足に包帯、巻いたるわ」
 フミ子は、ビリビリと服を破りました。そして、小犬の足に拾った木をそえて、グルグルと服の包帯を巻きました。

「ちょっとの間、辛抱やで」
 しばらくすると、服の包帯が巻き上がりました。
「フウッ、これで多分ええわ。まあ、二週間もつけてりゃあ、元通りにひっつくやろ。小犬ちゃん、しばらくは派手に動いたらあかんで」
 小犬は、うれしそうにフミ子の手をなめました。フミ子は、小犬の背中をやさしくなでました。

 土管の周りは、だんだんと薄暗くなっていきました。
「あ〜あ、今日も疲れたわ。今日はここで寝るか」
 フミ子は、犬と小犬を抱いてすやすやと眠りにつきました。


『ワンッ ワンッ』
 次の日の朝、フミ子は目を覚ましました。
「ううん、うるさいなあ。何なんよ」
 犬は、フミ子のスカートを口にくわえました。
「またどっかへ連れて行く気?」
 犬は、フミ子のスカートを引っ張りながら、町に向かって歩いて行きました。

 しばらくすると、中華料理店の裏の小道に入って行きました。犬は、フミ子のスカートから口を離しました。
「あは! あんた、食べ物探しをするんやな?」
 犬は、ゴミの中をあさりました。すると、捨てられた肉や野菜が、わんさかと出てきました。
「うわあ、けっこうあるんやねえ! 私にも分けてな」
 フミ子は、ゴミの中からよさそうなものを選んで、犬と一緒に食べました。
「そうや。小犬ちゃんの分も持って帰らんとな」

 フミ子と犬は、川の土管に帰りました。
「小犬ちゃん、ただいま! 見てほら! おいしそうやろ、たんと食べや」
 小犬は、おいしそうに肉や野菜を食べました。
「なんか、うちら家族みたいやね。 私、ここでしばらく暮らそうかな。なあ、いいやろ?小犬ちゃん。ウフフ」


 それから、二週間の時が過ぎました。
 フミ子は、小犬の足をジロジロと眺めました。
「なんかそろそろ、取ってええんちゃう? あれから大分たったしな。ねえ、ちょっと外してみる?」
 フミ子は、おそるおそる小犬の足の包帯を解きました。
「あっ、直ったんちゃう? 痛くないか?」
 フミ子は、小犬の足をなでました。
「あんた、しばらくはゆっくりと歩くんやで。 まだ、走ったらあかんで! 徐々に、徐々に、ようなっていくからな」
 小犬は、うれしそうに、フミ子の手をなめました。フミ子は、小犬の背中を、やさしくなでました。
「さてと、腹が減ったわね。町に行ってくるね!」

 フミ子は、犬と一緒に町に向かって走っていきました。しばらくして、中華料理店の裏の小道にたどり着きました。
「さあてと、今日のごちそうは何かしら♪」
 フミ子は、ゴミの中に手を突っ込んで、ゴゾゴゾと食べ物を探しておりました。

 すると、そこにお店の人がやってきました。
「こら! そこで何してるんや」


「キャッ!ごめんなさい! 私、お腹が減って、つい…」
「お腹が減ってるんなら、うちのお店の中で食ってんか。ゴミをちらかしたらあかんよ! あんた、どこの子や?」
「天下茶屋の、風天の家の者です」
「天下茶屋!天下茶屋ゆうたら、こっからけっこう離れた所やな。それにしても、あんた臭いな!服がボロボロやんか。 あんた、もしかして家出か?」
「はっ、はい。そうです」
「それやったら、早く、家に帰らんと。家の人が心配しとるで」
「いえ、いいんです。私、犬と暮らしてますので」
「犬やて? あんたいったい、何があったんや?」

 フミ子は、お店の人に、今までの出来事を話しました。そして、川の土管に行って、子犬の姿を見せました。

「ははあ、そういう事やったんか。フミ子ちゃん、あんた、やさしい子やな!」
「お店のゴミをあさったこと、堪忍して下さい。うちら、食べるもの、他でよう探されへんのです」
「フミ子ちゃん、ほな、こうしよう。犬のめんどうは、今後はわしが見たる。その代わり、あんたは家に帰りなさい。年頃の娘が、こんな所でゴミをあさったり、外で犬と寝とったりしてたらあかん。どや、わかったか?」
「はっ、はい。わかりました」
 店の人は、フミ子を家まで送りました。

 親戚の家の母は、カンカンになって怒りました。
「あんたいったい、どこをほっつき歩いてたんや、この馬鹿!おかげで家の中が滅茶苦茶やで! 今日からたんと働いてもらうで!」
「はい。すみませんでした」
「あっ、臭!ちょっと、先に風呂に入って来て!」

 フミ子は、お風呂からあがると、家の掃除や洗濯や炊事を、夜がふけるまで続けました。そして、用事が終わると、物置部屋でぐっすりと眠りにつきました。


 次の日の朝、フミ子は、久しぶりの学校に行きました。
 周りの生徒達は、フミ子を見ると、ヒソヒソと話して笑っておりました。

 お昼休みの時間になると、生徒達は、弁当を広げて、楽しそうに食べ始めました。フミ子には、弁当がありませんでした。
 フミ子は、お腹がへったので、トイレに行きました。そして、水道の水を飲みました。トイレから出ると、クラスの教室に戻りました。

 生徒の一人が、フミ子に話しかけました。
「なあフミ子。この前おれ、お前に悪いことしたよな」
「えっ?」
「スマン!」
「…私、別に気にしてないからいいんよ」
「おれ、お前のこと、心配だったよ。 よかったら、これ食いな」
 男の子は、自分の弁当箱をフミ子に渡しました。
「あら、いいわよ。それじゃあ、あなたが食べるものなくなっちゃうじゃない」
「オレはいいんだ。フミ子がそれで元気になってくれれば」
「あらそう。ありがと。じゃあ、一緒に半分こにして食べましょうよ!」
 それから、その男の子は、弁当箱を毎日二つ持って来てくるようになりました。そして、毎日フミ子に渡すようになりました。

 やがて幾年かが過ぎ、その男の子とフミ子は結婚をしました。二人は一生懸命働いて、町角に一軒の家を建てました。

 家が出来て間もない頃、戦争が始まりました。夫は、戦争に駆り出されて、そのまま帰らぬ人となりました。

 子供がいなかったフミ子は、子供が喜ぶお店を始めようと思いました。そして、家を改築して、駄菓子屋を始めました。

「あの子犬ちゃん、あれからどうなったんやろな。なんだか今日は、子犬ちゃんがなつかしいわ」
 そう言うと、フミ子は安らかな顔で、スヤスヤと眠りにつきました。

≪完≫

[ 戻る ]

感想等の書き込みをお待ちしております。
下記の掲示板で自由に書き込みが出来ます。





トップ 一覧 単語検索 最終更新   ヘルプ   最終更新のRSS


姉妹サイト:
検索エンジン・ポータルサイトのリンク集 夢事典・夢診断Wikidream PS3体験版情報 名作シネマ☆セリフ
格安ファーストフード情報 お勧めJ-POP☆邦楽
気になるIT用語辞典 気になる経理用語辞典 気になる現在・時事用語
Last-modified: 2008-02-01 (金) 09:42:18 (4979d)

WEB・携帯(モバイル)サイト開発とSEO対策の和道株式会社