短編童話

天狗と河童

  • 著:funyara9(滝川雅晴)
  • 作成日:2007/06/10
    • 魔法のiらんど 童話/絵本 2007/06/17付 注目作品

本編

 うっそうとした山奥に、天狗と河童が住んでおりました。
 河童は、草葉の陰からだれもいない山道を、じっと見つめておりました。
 すると、天狗がやってきて言いました。
「河童どん。何をそんなに見ているのかね」
「人が来るのを待っているのさ」
「人が来たら、どうするのかね」
「さらって食べるのさ」
「ほう、それはおもしろい。わしもね、人をさらって食べようと思ってたんだよ」
「天狗さん。ぼくはもう、三日も前からここで探してるんだから。人が来たらぼくのものだよ」
「そう言われても、わしだって、ずいぶん人を探しているんだからね」
 そう言い合っておりますと、道の向こうから、人がやってくる気配がしました。

 天狗と河童は、急いで草葉の陰に隠れました。
「やあ、ひさしぶりの獲物だい」
 見ると、三人の親子連れが歩いておりました。

「河童どん。ここは一つ、どちらが多く人をさらえるか、競争をしないかい?」
「なんで競争するんだい?」
「勝った方が、この獲物を全部いただきということで、どうだい?」
「いいよ。じゃあ、競争しよう」

 そう言うと、河童は林の奥に入って行きました。
 天狗は、木の上に向かって飛んで行きました。


 三人の親子は、何も知らずに歩いておりました。ふと、子供は父と母に言いました。
「とうちゃん、かあちゃん。なんだか、魚の臭いがするよ」
「そうかい?わしはなんにも匂わんぞ」
「おまえ、お腹が減ったんじゃろ。アハハ」

 すると突然、河童が出てきました。
「うわっ、化物!」
 河童は、父の足をむんずとつかむと、あっという間に、林の奥に消えました。
「とうちゃん!」
「あんた!」
 母と子供は、父を追って、林の奥を追いました。

 すると突然、木のてっぺんから、天狗が出てきました。
「きゃあっ、化物!」
 天狗は、母の手をむんずつかむと、あっという間に、林の奥に消えていきました。
「かあちゃん! ワアアン!」
 子供は、あまりの出来事に、ワンワンと泣きました。


 しばらくすると、雨がしとしとと降ってきました。子供は、草葉の陰に身を隠しました。

 突然、木のてっぺんから、天狗が山道に降りてきました。

「さてと、残るは小僧のみだな。やい小僧、どこへ行った! 出てきなさい!」
 天狗は、するどい目を光らせながら、辺りをうろつきました。

 次第に、雨足が早くなりました。
 天狗は両手で頭の上をおおいながら、雨をしのぎました。
「かあ!こりゃあ、ひどい雨だわい」
 天狗は、そう言うと、持っていた羽団扇(はうちわ)を、木の葉に向かってあおぎました。

「大きくなあれ 大きくなあれ」

 すると、木の葉がぐんぐんと、大きくなりました。
 天狗は、木の葉をちぎり取ると、頭の上にかざして雨をしのぎました。
「やれやれ。こんなに雨が降ると、飛びにくいわ」
 天狗は、雨の降る空を、じっと眺めておりました。


 すると突然、草葉の陰から、子供が飛び出してきました。
「うわっ なんだ!」
 子供は、天狗の羽団扇をぶん取りました。
 そして、そのまま林の奥にドボンと飛び込んで、姿を消しました。

「おい、こら!小僧!どこへ行った。出てきなさい! わしの羽団扇を返しなさい!」

 すると、草葉の陰から
「小さくなあれ 小さくなあれ」
 と声がしました。

 天狗は、みるみるうちに、小さくなりました。
「ひゃあ、まいった! お坊ちゃま、どうかお許しを」

 すると、草葉の陰から、子供が出てきました。左の手に、しっかりと羽団扇をにぎっておりました。
「やい!この、人さらいめ。かあちゃんを返せ!」
「あっ、はい、すぐに、お母上をお戻しいたします! ですからどうか、わしの姿も、元に戻して下さい」
「かあちゃんが、先だ!」
 小さくなった天狗は、ふらふらの体で、林の奥から母を連れてきました。


 しばらくすると、山道に河童が出てきました。
 見渡すと、母が一人で歩いておりました。
「ヒヒヒ!これで二人目だ。楽勝、楽勝!この勝負、ぼくの勝ちだな」

 河童は、母の足をむんずとつかむと、あっという間に、林の奥に入っていきました。
 河童は、母をずるずると引きずって、池に向かっておりました。すると、母はシクシクと泣き出しました。

「泣いたってもうだめだよ。あんたはもうじき、ぼくのお腹の中に入るんだからね」
「河童どん、わしじゃ。天狗じゃよ」
「ええっ?」
 河童は足を止めました。

「実はな。あの小僧に、羽団扇を取られてしもうたんじゃ。それでわしは、母の姿に変えられたんじゃ」
「なんじゃあ、天狗さん。みっともないなあ」
「河童どん、どうかわしを助けておくれよ!お前さんのつかまえた父をあの小僧に返さないと、わしは元の姿に戻れないんじゃよ!」
「あああ、もう!この、すっとこどっこい!せっかくの獲物だったのに」
「このお礼は必ずするから、ね!な、何でもするから!一生のお願い、ね!助けて!」
「わかったよ。返しゃあいいんだろ。でも、この先はもう知らないからね」
「あー、ありがとう、ありがとう」

 河童はしぶしぶと、父を天狗に渡しました。


 天狗は父を連れて、山道に出て来ました。
「あのう、お坊ちゃま!ただ今、お父上を、連れてまいりました。ですから、どうか、出てきてくださいな」

 すると、子供が山道に出てきました。
「とうちゃんを、こっちに渡せ」
「はい、ただ今」

 父は、子供の所にかけ寄って抱きしめました。
「無事でよかった!お前、でかしたなあ! さすがはわしの子じゃ」

 天狗は、おそるおそる、子供に言いました。
「あのう、それで、わしの体を、元に戻していただけないでしょうか?」
「いいよ」
 子供は、そう言うと、持っていた羽団扇を、天狗に向かってあおぎました。
「天狗になあれ。天狗になあれ」

 すると天狗は、元の姿に戻りました。
「ひゃあ、ありがたい、ありがたい」
「もう、おいらたちを、さらうんじゃないぞ」
「もちろんですとも。もう二度と、悪さはいたしませんよ」

 天狗は、おそるおそる、子供に言いました。
「あのう、それで、わしの羽団扇を、返して、いただけないでしょうか?」
「いいよ」
 子供は、そう言うと、持っていた羽団扇を、林の奥に投げました。


 天狗は林の奥に飛び込んで、羽団扇を手にしました。
 すると、赤い顔を、さらに赤くして、言いました。
「へっ、馬鹿な小僧だな。さっきはよくも、恥をかかせてくれたな!ええい、もうこうなったら、二人とも食ってやるぞ!」
 天狗は、そう言うと、持っていた羽団扇を、父と子供に向かってあおぎました。

「小さくなれ! 小さくなれ!」

 しかし、父と子供は、小さくなりませんでした。

「あれ? なぜだ?どうして、変わらんのじゃ?」

 天狗は、赤い顔を、さらに赤くして、羽団扇を、父と子供に向かってあおぎました。

 子供は、笑いながら言いました。
「アハハ! かあちゃん、たのむ」

 すると、草葉の陰から、羽団扇を持った母が、山道に出てきました。
 母は、持っていた羽団扇を、天狗に向かってあおぎました。

「小さくなあれ 小さくなあれ」

 天狗は、みるみるうちに、小さくなっていきました。天狗が手にしていた羽団扇は、カエデの葉に化けました。
「ひゃあ、まいった!もうだめだ・・・」

 天狗は、ほうほうの体で、林の奥に逃げて行きました。

「かあちゃん、うまくいったね」
「そうね。うちが本物の羽団扇を持ってたとは、さすがの天狗も気付かんかったようね」
「この羽団扇があったら、なんにも恐いものしらずだな」
「とうちゃん、どうだい!おいらはこの世で一番強いじゃろ。アハハハ!」

 三人の親子は、お腹をかかえて笑いました。
 すると、子供の鼻が、にょきにょきと高くなりました。

≪完≫

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Last-modified: 2008-02-01 (金) 09:48:01 (4979d)

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