13歳の初恋 †
本編 † 13歳の久美子は、新しい中学校に向かって歩いておりました。 「名前は?」 運動場には、大勢の生徒が集まっておりました。 『サワザワ・・・』 知り合いのいない久美子は、運動場の周りを、とぼとぼと歩いておりました。 「はい、みなさん! 名前を呼ぶので、その先生の所に集まって下さい」 色の黒い先生が、マイクを持って話しました。 「田中雄一くん、工藤美香さん、佐藤久美子さん・・・」 久美子は、呼ばれた先生の所に行きました。 『たくましい腕。つやがいいのね』 久美子は先生の喉ぼとけを見ておりました。 「佐藤、どうした?」 先生が久美子に話しかけました。 「はっ、ごめんなさい! 何でもないです」 久美子は目をそらしました。 しばらくして、久美子と生徒達は、教室に座っておりました。 「このクラスの担任の、三浦です。これから1年、みんなの面倒を見るからよろしく!」 三浦先生の肌は浅黒く、話すと白い歯が見えておりました。 昼休みになると、久美子は弁当を取り出しました。 「あの、入れてもらってもいい?」 久美子は、三人の女の子達に言いました。 「いいわよ、一緒に食べよ」 「ねえ。三浦先生って、ちょっとかっこよくない?」 幾日かたった頃、国語の授業がはじまろうとしておりました。 隣の席の生徒が、久美子に話しかけました。 「佐藤さん」 久美子と秀雄は、机を近づけました。 『ん? この匂い・・・』 久美子は、秀雄の体から出る匂いに、顔をそむけました。 「松川くん、汗臭いわね」 秀雄はタオルを出して、顔をふきました。 授業が終わると、久美子は体育館に行きました。 『そーれー、ファイト! ファイト!』 体育館を覗くと、バレーボールの練習と、バスケットボールの試合をやっているのが見えました。 バレーボールのコートに、三浦先生がおりました。 「今度は取れよ! ほらっ!」 三浦先生は、バレーボールを遠くに投げました。 『ダダダッ・・・』 選手はバレーボールをレシーブしようとして、懸命に走っておりました。 「おい、取れよ! ほらっ!」 三浦先生は、バレーボールを手前に投げました。 選手は懸命に走ってきました。 『ダダダッ・・・』 選手は手を伸ばし、バレーボールのレシーブをしました。 「よし! あと5本! ほらっ!」 『ダダダッ・・・』 久美子は、先生の姿をじっと見ておりました。 先生は、久美子をチラッと見つめました。 「よし、OK! 5分休憩!」 先生は、久美子に近づいて言いました。 「佐藤、どうした? バレーボールやるか?」 久美子は恥ずかしくなって、走って体育館を出ました。 運動場を見ると、秀雄の姿が見えました。 『あいつ、野球部なんだ』 秀雄は白いユニフォームを着て、選手達と一緒に走っておりました。 次の日、授業が終わると、久美子は体育館に行きました。 体育館の入り口で、遠くから三浦先生を見ておりました。 「はいトス! ブロック飛べ!」 しばらくして、久美子は体育館から離れました。 運動場を見ると、秀雄の姿が見えました。 『あいつ、ピッチャーなんだ』 秀雄は、大きくふりかぶると、速い球をキャッチャーめがけて投げておりました。 『バシッ』 キャッチャーミットから、小気味のよい音が鳴り響きました。 『うわっ! キャッチャー、痛そー。あんな球は取れないわ』 ある日、三浦先生が久美子に話しかけました。 「佐藤。今度の日曜日にバレーボールの試合があるんだが、お前、見にこないか?」 三浦先生は、久美子にチケットを渡しました。 「梅沢駅を降りたとこの市立体育館な。じゃ」 日曜日になり、久美子は市立体育館で、バレーボールの試合を見ておりました。 『ソーレー!』 試合が終わると、三浦先生は久美子に話しかけました。 「佐藤、ちょっと待ってて」 三浦先生はコートの片付けが終わると、久美子の所に戻って来ました。 「やあ、待たせたね。どうだ、飯でも食わんか?」 しばらくして、三浦先生と久美子は、ファミレスにおりました。 「三浦先生、今日はいい試合でしたね」 ファミレスを出ると、三浦先生は久美子に言いました。 「佐藤、送ってくよ。車で来てるんだ」 有料駐車場から、車のスカイラインが出てきました。 「へえ〜、いい車に乗ってるんですね」 有料駐車場を出て、夜の町を走り出しました。 「あの、三浦先生は、奥さんいらっしゃるんですか?」 暗い道を走っておりました。 「なあ、佐藤」 三浦先生は、久美子の目をじっと見つめました。 「えっ?」 久美子の手を握りました。 「何をするんですか、キャッ!」 久美子の手を強く握ると、顔を近づけて来ました。 「イヤ、離して! キャッ!」 久美子は頭突をしました。 『ガチャッ』 久美子は車のドアを開けて出ると、走り出しました。 「おい、佐藤! 冗談だってば!」 久美子は振り返らずに、走って逃げました。 その日の夜、久美子はふとんの中で、泣いておりました。 『ウウ・・・』 幾日かたって、久美子は学校に行きました。 「久美子、大丈夫?」 隣の席の秀雄が、久美子に話しかけました。 「佐藤さん。体、大丈夫?」 秀雄は、にっこりと微笑みました。 久美子は、秀雄の顔をじっと見つめました。 『この笑い方、ちょっとお父ちゃんに似てるわ』 次の日、廊下で三浦先生と会いました。 「佐藤、なあ・・・」 久美子は、目をそらして通り過ぎました。 席に戻って、秀雄を見つめました。 腕の傷、日に焼けた真っ黒な体、割れた爪。 「ん?」 秀雄は久美子を見ました。 「あっ、ごめん。なんでもない」 久美子の心臓が、早鐘のように鳴っておりました。 『松川くん、意外とかっこいい・・・』 授業が終わって、久美子は運動場に行きました。 秀雄の姿が見えました。 『バシッ』 キャッチャーミットから、小気味のよい音が鳴り響いておりました。 『かっこいい・・・』 秀雄は、久美子の姿に気が付くと、にっこりと笑って手をふりました。 次の日、国語の授業がはじまろうとしておりました。 久美子は秀雄に言いました。 「松川くん」 久美子と秀雄は、机を近づけました。 久美子は、秀雄の体から出る匂いをかぎました。 『この匂い・・・ 懐かしい、いとおしい感じ・・・』 「また匂ったら、ごめんな」 秀雄はタオルを出して、顔をふきました。 「ううん、気にならないわ」 久美子の心臓が、早鐘のように鳴っておりました。 久美子はハンカチを取り出すと、秀雄と同じように顔をふきました。 次の日、久美子は早く学校に行きました。 「おはよう」 秀雄が教室に入ってきました。 久美子の心臓が、早鐘のように鳴っておりました。 久美子は席を立つと、教室から出て行きました。 秀雄は、机の手紙に気が付いて、中を開けました。 『松川くん 佐藤久美子です。松川くんの事、好きです。よかったら、文通してもらえませんか?』 秀雄は、顔が真っ赤になりました。 久美子はおそるおそる、席に戻りました。 秀雄は、顔を真っ赤にして、タオルで顔をふいておりました。 久美子の心臓が、早鐘のように鳴っておりました。 久美子は上目使いで、秀雄をちらっと見ました。 「おい、松川!」 国語の先生が秀雄に言いました。 「はいっ!」 「ハハ・・・」 教室から笑いがこぼれました。 次の日、秀雄は早く学校に行きました。 「おはよう」 久美子が教室に入ってきました。 秀雄の心臓が、早鐘のように鳴っておりました。 秀雄は席を立つと、教室から出て行きました。 久美子は、机の手紙に気が付くと、手に取ってトイレに駆け込みました。 『佐藤さん 松川秀雄です。ごめんなさい・・・』 久美子の手から、手紙が落ちました。 「ウウッ・・・」 久美子は、手紙を拾って続きを読みました。 『佐藤さん 松川秀雄です。ごめんなさい。おれ、文を書くのが苦手です。よかったら付き合ってください』 「ああっ!」 久美子は、手紙を抱きしめると、うれしそうな顔をして飛び跳ねました。 久美子は教室に戻りました。 久美子は、上目使いでにっこりとしながら、秀雄に話しました。 「松川くん」 秀雄は、真っ赤な顔をして答えました。 「はい!」 秀雄は、久美子に向かってにっこりとほほえみました。 久美子は、うれしそうに秀雄を見つめました。 ≪完≫
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