短編恋愛

ジャンベールの恋人

  • 著:funyara9(滝川雅晴)
  • 作成日:2007/06/28

本編

 ドロンの都に、ジャンベールという背の高い男がおりました。

 ジャンベールは、ドロン美術館におりました。

 ゆっくりと歩いて、絵や像を見ておりました。

『これは・・・』

 1枚の絵の前で、足が止まりました。
 絵の中にいる女性の姿を、じっと見つめました。

『・・・・・・』

 その女性はつつましく、にっこりとほほえんでおりました。

 やがて、日が暮れると、ドロン美術館が終わり、ジャンベールは帰りました。

 次の日、ジャンベールはドロン美術館に行きました。
 昨日見た絵の所に行くと、絵の女性の姿をじっと見つめました。

 やがて、日が暮れると、ドロン美術館が終わり、ジャンベールは帰りました。

 その次の日も、ジャンベールは絵の女性の姿を、じっと見つめておりました。

『マリナ。 マリナと呼んでいいかい?』


 ジャンベールは家に帰ると、せわしなく動いておりました。

『・・・マリナ・・・ マリナに会いたい・・・』

 次の日、ジャンベールはドロン美術館に行きました。

 トイレに入り、窓の大きさをひもで測りました。

 そして、マリナの絵の所に行き、絵の大きさをひもで測りました。

『よし、いけそうだ』

 その日の夜、ジャンベールはドロン美術館のトイレの窓から、こっそりと忍び込みました。

 そして、マリナの絵の所に行き、絵をはずしました。

『マリナ! ぼくと一緒に行こう』

 絵を布にくるむと、それをかかえてトイレの窓から、こっそりと抜け出しました。


 ジャンベールは家に帰ると、布をはがしました。

「マリナ!」

 ジャンベールはふるえる手で、マリナの絵の唇に触れました。

「マリナ。 今日からぼくと暮らそう」

 ジャンベールは、マリナの絵をベッドのそばにおいて、眠りにつきました。

 次の日、ジャンベールはスープを作ってマリナの絵の側におきました。

「マリナ、スープだよ」

 マリナはつつましく、にっこりとほほえんでおりました。

「マリナ、飲まないのかい。じゃあ、ぼくが代わりに飲んであげるよ」


 ジャンベールは、絵を布でくるむと、馬車にのって川に行きました。
 川辺に腰をかけると、布をはがして絵を立て掛けました。

「マリナ、見てごらん! きれいな川だよ。天気もいいし、気持ちいいね」

 ジャンベールは、パンを出してマリナの絵の側におきました。

「マリナ、パンだよ」

 マリナはつつましく、にっこりとほほえんでおりました。

「マリナ、食べないのかい。じゃあ、ぼくが代わりに食べてあげるよ」


 ジャンベールは、家に帰ると、ぶどう酒を出してマリナの絵の側におきました。

「マリナ、ぶどう酒だよ」

 マリナはつつましく、にっこりとほほえんでおりました。

「マリナ、飲まないのかい。じゃあ、ぼくが代わりに飲んであげるよ」

 しばらくすると、ジャンベールはふるえながら、マリナの唇に、自分の唇を近づけました。

「マリナ・・・」

 ほんの少し、唇が触れ合うと、ジャンベールは絵から離れました。

「マリナ、ごめん。 君を汚す所だったよ」

 ジャンベールは、ベットに横になると、ぐっすりと眠りにつきました。


 次の日、ジャンベールは、絵を布でくるむと、布に二つの穴を開けました。
 穴をのぞくと、マリナの目が見えました。

 そして、馬車にのって演劇場に行きました。

「マリナ、人気の演劇が始まるよ」

「オー!」
「アハハハ!」

「マリナ、おもしろかったね」

 演劇が終わると、ジャンベールは布にくるんだ絵を持って、出口に向かいました。


「あの、ちょっと」

 太った男が、ジャンベールに言いました。

「はい?」
「その布の中は、何ですか?」
「ああ、ぼくが描いてる絵ですよ」
「そうですか。ちょっと、見せてもらえませんか?」
「いえ、まだ人に見せられないんですよ。すみません」
「いや、その絵の目に見覚えがあるんです」

 そういうと、太った男は、布をむんずとつかまえてはがしました。

「やめてください! あっ!・・・」

「・・・この絵は、ドロン美術館にあった絵と、そっくりですね」
「・・・ぼくが描いたんですよ」

 太った男は、その絵をじっと見つめました。

「本物そっくりですな。ドロン美術館の人に見てもらいましょうか」


 ジャンベールは、ドロン美術館に連れていかれました。
 部屋に、眼鏡をかけた男が入ってきました。

「間違いない。あれは本物です」
「やはりね。君の名前は?」
「・・・ジャンベールです」
「あの絵はどうしたのかね?」
「・・・」
「どうしたのかねと、聞いているんだよ!」
「・・・ぼくは、あの絵の女性が好きなんです。もう、離れられません」
「なに? それで盗んだのか?」
「・・・はい」

 ジャンベールは、裁判所に連れていかれました。

「ジャンベール。判決を言い渡す。牢屋に三ヶ月入って、決められた労働をする事。牢屋から出たら、ドロン美術館に近づかない事。近づいたら、むち打ち百回の刑をする」


 ジャンベールは牢屋に入りました。
 それから三ヶ月後、髭ぼうぼうの姿で、牢屋から出てきました。

 ジャンベールは家に帰ると、せわしなく動いておりました。

『・・・マリナ・・・ マリナに会いたい・・・』

 次の日、ジャンベールは服をたくさん着込みました。

 そして、髪と髭に白い絵の具を塗りつけました。

 最後に、眼鏡をかけて杖を持ちました。

 ジャンベールは、杖をつきながら、ドロン美術館に行きました。

 そして、マリナの絵の所に行きました。

『マリナ、ぼくだよ、ぼく!』

 ジャンベールは、眼鏡をはずしました。

『ジャンベールだよ、会いに来たよ!』

 ジャンベールは、じっとマリナを見つめました。
 マリナはつつましく、にっこりとほほえんでおりました。


 その日の夜、ジャンベールはドロン美術館の、トイレの窓に行きました。

 トイレの窓には、開かないように、木が打ち込まれておりました。

 ジャンベールは、道具を取り出して、木の釘を抜き始めました。

『・・・ふう、もう少し・・・』

 しばらくすると、ジャンベールはトイレの窓から、こっそりと忍び込みました。
 そして、マリナの絵の所に行き、絵をはずしました。

『マリナ! 迎えに来たよ!』

 絵を布にくるむと、それをかかえてトイレの窓から、こっそりと抜け出しました。

 ジャンベールは家に帰ると、布をはがしました。

「マリナ!」

 ジャンベールは涙を流しておりました。

「もう、君なしでは生きていけないよ」


 次の日の朝、戸をたたく音が聞こえました。

『トントン・・・』

「ハッ!」

 ジャンベールは飛び起きると、絵を布にくるんで、ベッドの下に隠しました。

 ドアを開けると、太った男と三人の大男がおりました。

「ジャンベール。調べさせてもらうよ」
「ちょっと、勝手に入らないで下さい!」

 太った男と三人の大男は、部屋の中を探し始めました。

「おい、これは何だ?」

 太った男は、ベットの下の、布にくるまれた物を取り出しました。


 次の日、ジャンベールは、裁判所に連れていかれました。

「ジャンベール。判決を言い渡す。むち打ち百回の刑をする。それから、牢屋に六ヶ月入って、決められた労働をする事。牢屋から出たら、ドロン美術館に近づかない事。ドロン美術館に近づいたら、目つぶしの刑をする」

 ジャンベールは牢屋に入りました。

 それから六ヶ月後、髭ぼうぼうの姿で、牢屋から出てきました。

 ジャンベールは家に帰りました。

『・・・マリナ・・・ マリナに会いたい・・・』


 次の日、ジャンベールは、髭をそり、かつらの髪を付けました。

 ほおに、ピンクの絵の具を塗りつけました。

 そして、女の服をたくさん着込みました。

 ジャンベールは、ドロン美術館に行きました。

 そして、マリナの絵の所に行きました。

『マリナ、ジャンベールだよ、会いに来たよ!』

 ジャンベールは、じっとマリナを見つめました。
 マリナはつつましく、にっこりとほほえんでおりました。


 その日の夜、ジャンベールはドロン美術館の、トイレの窓に行きました。

 トイレの窓には、開かないように、木が打ち込まれておりました。

 ジャンベールは、トイレの窓に近づきました。

「うわっ!」
『ドサッ!』

 ジャンベールは、落とし穴に落ちました。


 次の日、ジャンベールは、裁判所に連れていかれました。

「ジャンベール。判決を言い渡す。目つぶしの刑をする。それから、このドロンの都から出て行く事」

 ジャンベールは、目をつぶされました。

 そして、ドロンの都から遠く離れた村に、連れて行かれました。

 ジャンベールは、あわれな姿で、杖をつきまがら村を歩きました。


 幾日かたった頃、ジャンベールは村の教会におりました。

 ジャンベールは、ベットに寝たきりになっておりました。

 教会の神父が、ジャンベールに言いました。

「具合はどうだい?」
「神父さん、ありがとうございます・・・ ぼくはもう、長くはないようです・・・」

 神父は、ジャンベールの手をにぎりました。

「しっかりしなさい。私が見守ってるからね」
「神父さん、ありがとうございます・・・ マリナに・・・ マリナに会いたい・・・」


 次の日、神父は自分の服を脱いで、ジャンベールに着せました。

 そして、首に十字架をかけさせ、髪と髭に白い絵の具を塗りつけました。

 最後に、ジャンベールを車椅子に座らせました。

 神父は馬車に乗って、ジャンベールと一緒に、ドロンの都に行きました。

 神父は、ドロン美術館に着くと、車椅子に乗ったジャンベールを降ろしました。
 そして、マリナの絵の所に行きました。

 神父はジャンベールに言いました。

「ジャンベール。あなたのマリアが、目の前にいますよ」

 ジャンベールは、絵に向かって、ふるえる手を伸ばしました。

「マリナ・・・ マリナ・・・」

 やがて、ジャンベールの手が降り、静かになりました。

 神父はジャンベールを抱きしめて、祈りをささげました。


 ジャンベールの目の前に、マリナが現れました。

『ジャンベール』

『マリナ!』

 マリナは、ジャンベールの手をにぎり、にっこりとほほえみました。

『ああ、見えるよ! マリナ、見えるよ!』

『わたしのジャンベール。 次の世で、一緒になりましょう』

 ジャンベールとマリナは、天使にかこまれながら、大きな光の中に、包みこまれていきました。

≪完≫

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Last-modified: 2008-02-01 (金) 10:16:01 (4979d)

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