短編童話

バスの運ちゃん

  • 著:funyara9(滝川雅晴)
  • 作成日:2007/06/23

本編

 茂は、小さい頃に夢がありました。

 小さい頃、幼稚園に行くときに、いつもの道でバスが通りました。
 茂は、バスの運転手に手を振りました。

「バイバイ〜!」

 バスの運転手は、にっこりとした顔で、茂に手を振りました。

 茂は、とてもうれしくなりました。

「ぼくも、バスの運ちゃんになりたい!」


 茂は、大きくなって学校を卒業すると、アルバイトをしてお金を貯めました。そして、バスの免許を取りました。
 次の年、茂はバスの運転手になりました。

 バスから見ると、世界がよく見えました。
 かわいい子供たちが歩いているのが、よく見えました。

 茂は、にっこりとした顔で、子供たちに手を振りました。
 すると、子供たちはうれしそうに手を振り返しました。

「バイバイ〜!」


 幾年かが過ぎて、いつものようにバスが走っておりました。

 子供たちは、バスを見かけると、にっこりとした顔で、茂に手を振りました。

「バイバイ〜!」

 茂は、にっこりとした顔で、子供たちに手を振りました。
 すると、子供たちはうれしそうに手を振り返しました。

「バイバイ〜!」


 ある日、いつものようにバスが走っておりました。

 かわいい子供たちが、大勢歩いているのが見えました。

「遠足かな?」

 茂は、にっこりとした顔で、子供たちに手を振りました。
 すると、子供たちはうれしそうに手を振り返しました。

「バイバイ〜!」

『ガッシャーン!』


「キャー!」
「うわー!」

 突然、バスが止まりました。
 バスは、電柱にぶつかっておりました。バスのフロントガラスが、こなごなに割れておりました。

 茂は、頭を打って気を失っておりました。


 茂は目を覚ましました。

「ん・・・」

 目の前に、看護婦がおりました。

「あら、茂さん!目を覚ましたわね!」

 看護婦は、医者を連れて来ました。

「茂さん、具合はどうですか?」
「頭がズキズキしています。先生、私は事故を起こしたんですよね?」
「ええ、そうですね。あなたは救急車で、ここに運ばれて来たんですよ。まあ、しばらくは安静にして下さい」
「先生、バスに乗ってたお客さんは?」
「ああ、みんなうちの病院にいますよ。幸い、命を落とすようなことにはなってませんよ。安心してください。あなたが一番、重症ですよ。ですが、じきに治ります」
「そうですか・・・」

 茂は、がっくりと肩を落としておりました。


 次の日、バスの会社の人が、お見舞いに来ました。

「茂、具合はどうだ?」
「部長! この度は、本当に申し訳けございません!」
「まあ、起こった事は仕方ないさ。早く良くなれよ」
「・・・部長。 ぼくは、運転手失格です。・・・」
「・・・」
「会社を、やめようと思っています」
「まあ、その話は、退院してからにしようや」
「部長、怪我をしたお客さんに会いましたか?」
「ああ、謝って来たよ」
「どこの部屋にいるのですか?」
「602号室。お前も体が良くなったら、一言謝りに行ってくれよな」
「はい、必ず・・・」

 会社の人は、羊羹(ようかん)を茂に渡しました。

「お前の好きな羊羹だ。元気だせよ。じゃ、また来るよ」

 会社の人は、茂の肩を軽くたたくと、帰っていきました。


 茂は、602号室に行きました。

 眼鏡をかけた男の人に言いました。
「この度は、本当に申し訳けございません!」
「ふん、おかげでこっちは仕事が出来ないよ!ったく・・・ まあ、おたくの会社から、その分のお金を出してもらうからね」

 若い少女に言いました。
「この度は、本当に申し訳けございません!」
「あら、運転手さん。頭にすごい包帯ね。大丈夫ですか?」
「ええ、ぼくは・・・」
「もう、怖くてバスに乗れないわ。おかげで学校をさぼれたけどね」
「本当に、申し訳けございません・・・」

 母と小さい子に言いました。
「この度は、本当に申し訳けございません!」
 母は、ぷいと顔を背けました。
 小さい子は、にっこりと笑って茂に手を振りました。
 茂は、小さく笑って小さい子に手を振り返しました。
「やめなさい!」
 母は、小さい子の手をつかむと、手を振るのをやめさせました。

 若い少年に言いました。
「この度は、本当に申し訳けございません!」
「来るな!」
 若い少年は、茂に雑誌を投げつけました。
 茂は、おじぎをしながら、頭をかかえてその場を立ち去りました。

 太った男の人に言いました。
「この度は、本当に申し訳けございません!」
「あんた、運転に向いてないんとちゃう?」
 太った男は、茂をじろりとにらみました。
「はあ、返す言葉もございません・・・」

 やせた女の人に言いました。
「この度は、本当に申し訳けございません!」
「ちょっと、どうしてくれるのよ!私の肌に傷が付いたわよ!」
「本当に、申し訳けございません・・・」

 老いた女の人に言いました。
「この度は、本当に申し訳けございません!」
「まあ、ご丁寧に。次からは、気を付けてくださいね。これでもどう?」
 老いた女の人は、茂にミカンを出しました。


 幾日かが過ぎて、バスの会社の人が、お見舞いに来ました。

「茂、元気か?」
「部長!おかげさまで、大分良くなりました」
「そうか。顔色も、幾分良くなったようだな」
「部長、相談がありまして・・・」

 茂は、会社の人に手紙を渡しました。
 会社の人は、手紙を開けて読みました。

「・・・辞めるのか」
「ええ。・・・ ぼくには、運転手の資格はありません」
「・・・言いにくいんだが、会社もお前に、辞めて欲しいと思っている。新聞に大きく出てしまってね。客が前よりも、減ってしまったんだ」
「・・・本当に、申し訳けございません」
「まあ、退院までにまだ時間があるだろう。それまでは、この手紙は預かっておくよ」
「はい・・・」

 会社の人は、茂の肩を軽くたたくと、帰っていきました。


 幾日かが過ぎて、退院の日がやってきました。

 茂は、看護婦にお礼を言って、病院の出口に向かいました。

「あっ、部長!」
「茂!」

 バスの会社の人が、車でやってきました。

「まあ、乗りなさい。家まで送るよ」
「ありがとうございます」

 茂は車に乗りました。
 会社の人は、茂に言いました。

「茂。会社をやめないで欲しい」
「えっ? どうしてですか?」
「後ろを見てみな」

 茂は、車の後ろを見ました。
 そこには、花束や千羽鶴や、子供の書いた絵やお守りが、たくさん置いてありました。

「部長、これは・・・」
「お前が入院している間に、会社に届けられたんだよ。全部、お前宛だ」

 茂は、子供の書いた絵を、手に取りました。
 絵には、にこにこと笑って手を振っている、バスの運転手の姿がありました。

「ううっ・・・」

「お前はこの町の人に、必要とされてるんだ」

「うっ・・・」

「茂。もう一回、バスの運ちゃんをやり直さないか?」

「は、はい! ううっ・・・」


 幾日かが過ぎて、バスが走っておりました。

 茂は、『安全第一』と書かれた鉢巻を、頭にぎゅっと巻いておりました。

 子供たちは、バスを見かけると、にっこりとした顔で、茂に手を振りました。

「バイバイ〜!」

 茂は、周りをよく見渡しながら、にっこりとした顔で、子供たちに手を振りました。
 すると、子供たちはうれしそうに手を振り返しました。

「バイバイ〜!」

 バスの中には、602号室にいた人たちが、みんな座っておりました。

≪完≫

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Last-modified: 2008-02-01 (金) 09:37:55 (4979d)

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