短編童話

李の契約書

  • 著:funyara9(滝川雅晴)
  • 作成日:2007/06/23
    • 魔法のiらんど 童話/絵本 2007/07/01付 注目作品

本編

 あるとき、都の王が、商人の李を呼びました。
 王は、李に言いました。

「李よ。これを見てくれ」

 王は、李に象牙の置物を渡しました。

「おお、これは素晴らしい・・・」

 象牙の置物は、丸い形をしておりました。そこには、竜や山や、川や人が、細かく彫り込まれておりました。たくさんの隙間があって、その中には同じように、丸い形の世界が、細かく何重にも、彫り込まれておりました。

「王様。こんなに素晴らしい象牙の置物は、はじめて見ました」

「李よ。お前に頼みがある」
「何でしょう」
「これと同じものを、作ってほしいのだ」
「なんと・・・ しかし、これを作れるほどの彫刻師は・・・ ああ、そういえば一人、心当たりがあります」
「そうか。それでは頼みたい」
「わかりました。お金はどのくらい、頂けますでしょうか」
「銀貨千枚でどうだ? 期限は、三ヶ月後の今日だ」


「わかりました。それでは、契約書を」

 李は、王に二枚の紙を渡しました。

 王は、紙に書き終わると、李に渡しました。

「これでよいか?」

 紙には、こう書いてありました。

『王は李に、象牙の置物を作る事をお願いする。作る物は、王が李に渡す見本の象牙の置物と、同じ物である。
 王は李に、見本の象牙の置物を貸し出す。
 期限は三ヶ月後の○月□日である。
 王は期限までに、約束通りに作った物に対して、銀貨千枚を李に払う』

「王様、よくわかりました。それでは、この置物をお借り致します」


 李は彫刻師の、張の所に行きました。
 李は張に言いました。

「張さん」
「あ?」
「こんにちわ。お久しぶりです」
「あ、李さん。どうも、ご無沙汰で」
「仕事の話に来ましたよ」
「それはどうも。まあ、座って下さいよ」

 李は、象牙の置物を張に渡しました。

「おお、これはすごい!」
「張さん。これと同じ物、作ってくれませんか?」
「ええっ? まあ、作れない事はないが・・・ そうだな〜、これは半年かかりますよ」
「そこを何とか、三ヶ月でお願いしたいんですよ」
「いや、別に彫るものがあるのでね。無理ですよ」
「銀貨五百枚で、どうです?」
「五百枚! そいつはすごいや・・・ よしっ、やる。やりますよ。引き受けた!」
「ハハッ、さすがはこの都で、一番の彫刻師だ。では、よろしくお願いします」

 李は立ち上がると、張と握手をしました。

「いやあ、こちらこそ」
「張さん。この見本は、なくさないようにして下さいよ。そうだ、見ないときは、ここにでも隠して下さい。では、二ヶ月後に、様子を見に来ますね」
「李さん、わかりました」


 それから二ヵ月後、李は張の所に行きました。

「張さん」

 張の家は、がらんとしておりました。

「あれ? 張さん、どこに行ったのかな?」

 李は、都の人に聞きました。

「彫刻師の張さん、どこに行ったか知りませんか?」
「ああ、あの人ね。この間、馬から落ちて、亡くなったそうですよ」
「ええっ!」

 李は、張の家から見本の置物を探し出すと、王の所に飛んで行きました。


「・・・王様。そういう訳で、作れなくなりました。申し訳けないのですが、お金は要りませんので、この話はなかったことに・・・」
「ならん!」

 王は、契約書を出して言いました。

「李よ。お前はあの日、この契約をしたではないか。お前には、この契約を守る義務がある」
「王様! ですが、あと一ヶ月で、腕のいい彫刻師を探して、このような立派な物を作ることは、逆立ちをしても出来ません」
「ならば、あと一ヶ月待とう。期限は今日から、二ヶ月後の○月□日だ」
「は、はい・・・」
「ただし、こうしてもらおう。罰として、今日から一日辺り、銀貨十枚を払ってもらおうか。そして、期限に間に合わなかったら、お前の首をもらおう」
「王様、それは・・・」

 王は、契約書を書き換えて、李に渡しました。

「それでは、よい知らせを待ってるぞ」


 李は、都の彫刻師の所に行きました。

「・・・それで、これと同じ物を、作ってほしいんですが」
「はあ。うちじゃ、無理だね」

「・・・それで、これと同じ物を作れますか?」
「んー、出来ないですね」

「・・・それで、これと同じ物を、作れたりします?」
「こんなもの、この都で彫れる人はいないよ」

「・・・それで、これと同じ物を彫って頂けませんでしょうか」
「いくらで?」
「えーっと、銀貨四百枚です」
「んー、だめだね」
「じゃあ、銀貨五百枚出します!いや、六百枚出します!」
「えーっと、やっぱりだめだね。いくらもらっても、こんなの彫れないよ」

 李は、とぼとぼと、都を歩いておりました。
「はあーっ・・・ この都には、彫れる者がいないのか・・・ あっ、そうだ」


 李は、もう一度、都の彫刻師の所に行きました。

「・・・それで、これと同じ物を作れる人は、だれか知りませんか?」
「いやあ、知らないね」

「・・・それで、これと同じ物を作れる人は、聞いた事はありませんか?」
「んー、聞いた事ないね」

「・・・それで、これと同じ物を作れるような、腕のいい彫刻師は知りませんか?この都でなくても」
「えーっと、わかんない」

「・・・それで、これと同じ物を作れるような、腕のいい彫刻師を、聞いた事はありませんか?この都でなくても、うわさだけでも」
「そうねえ。うわさだったら、東隣の都に、劉とかいう、腕のいい彫刻師がいるらしいよ」
「おお、そうですか! ありがとうございます」


 李は、東隣の都に飛んで行きました。そして彫刻師の、劉の所に行きました。
 李は劉に言いました。

「劉さん」
「・・・」
「こんにちわ。西隣の都から来ました、李と申します」
「何の用だ?」
「実は、仕事の相談がありまして、やって来ました」
「どんな?」

 李は、象牙の置物を劉に渡しました。

「劉さん。これと同じ物を、作ってくれませんか?」
「・・・いくらで、いつまでに?」
「銀貨四百枚で、今日から二ヶ月後までにです。もっと早く出来ると、うれしいのですが」
「銀貨千枚。期限は二ヶ月いっぱいかかるな」
「劉さん、銀貨千枚は厳しくて・・・ 少し、まけて頂けませんでしょうか」
「びた一銀もまからん」
「実は二ヶ月後に、お支払いできる銀貨は、四百枚しかありません。もしこれが出来なかったら、私は殺されてしまうのです」
「知らないね」
「そこをなんとか! 他に何か、お願い出来る方法は、ないでしょうか?」
「じゃあ、こういうのはどうだ? 銀貨四百枚で請け負う。 その代わりに、作り終えてから半年間、わしの奴隷として働く事」
「ええ、それでもかまいません」
「ああそう。じゃあ、それで引き受けようか」

 李は立ち上がると、劉と握手をしました。

「ありがとうございます! 劉さん、この見本は、なくさないようにして下さい。見ないときは、ここにでも隠して下さい。では、また伺います」


 それから二ヵ月後、李は劉の所に行きました。

「劉さん」
「はい、これ」

 劉は李に、作った象牙の置物を渡しました。

「おお、これは素晴らしい!」

 見ると、象牙の置物とそっくりな上に、世界がさらに、細かく生き生きと彫られていました。

「ああ、ありがとうございます! 今日の日の内に、なんとか銀貨四百枚をお持ちしますね!」


 李は、置物を持って、王の所に飛んで行きました。

「王様、お待たせをしました! こちらでございます」
「ほう」

 王は、作った象牙の置物を、まじまじと触りました。

「ほう、いい仕事をしたな。とても気分が良い」
「喜んでいただけて、何よりです」
「思ったより、いい物を作ってくれた。お礼として銀貨千枚を、お前に払おう」
「ええっ! 一日辺りの銀貨十枚は、よろしいんですか?」
「今ならな。わしの気持ちが変わらぬうちにな」
「ありがとうございます!」


 李は、東隣の都に飛んで行きました。そして、劉の所に行きました。

「劉さん!」
「・・・」
「おかげで、うまくいきましたよ、ハハハッ! それでですね、なんと、銀貨千枚がもらえたんですよ! なので、これを受け取って下さい」

 李は劉に、銀貨千枚を渡しました。

 劉は、銀貨の中から、四百枚を取り出すと、残りの六百枚を李に返しました。

「劉さん、千枚はいらないんですか?」
「李さん。あんた、こう約束をしただろう。銀貨四百枚で作る代わりに、作り終えてから半年間、あんたはわしの奴隷として働く事とね」
「ええ、あの時はそうでしたが・・・ 銀貨千枚では、だめですか?」
「だめ」

 それから半年間、李は劉の家で、奴隷として働きました。


 それから一年後、王が李を呼びました。
 王は、李に言いました。

「李よ。これを見てくれ」

 王は、李に象牙の置物を渡しました。

「おお、これは素晴らしい・・・」

 象牙の置物は、船の形をしておりました。そこには、鳥や虎や、猿や人が、細かく彫り込まれておりました。たくさんの隙間があって、その中には同じように、船の世界が、細かく何重にも、彫り込まれておりました。

「李よ。これと同じものを、作ってほしいのだ」
「そうですね。では、しばらくお待ちください」

 李は、二枚の紙に書くと、王に渡しました。

「この条件で、どうでしょうか」


 紙には、こう書いてありました。

『王は李に、象牙の置物を作る事をお願いする。作る物は、王が李に渡す見本の象牙の置物と、同じ物である。
 王は李に、見本の象牙の置物を貸し出す。
 期限は三ヶ月後の○月□日である。
 王は期限までに、約束通りに作った物に対して、銀貨千五百枚を李に渡す。

 その他の条件は、以下に記す。

 李の方で、期限のうちに作れない事がわかった場合、李は王に、見本の象牙の置物をすみやかに返す。それまでに作りかけた物があれば、それも渡す。王は李に一切の銀貨を払わない。李は王に対して、銀貨百枚を払う。

 王の方で、期限のうちにお願いをやめたい場合、それまで作りかけた物があれば、銀貨千五百枚から、その進み具合の割り合いの銀貨を、王から李に払う。

 期限のうちに、期限や銀貨の値を変える場合は、王と李が話し合いをし、王と李が合意した場合のみに有効とする』

 王は、李に言いました。

「うむ・・・ 細かく書いておるな。しかし、お前は信用が出来る。取引しよう」
「ありがとうございます!」


 李は、東隣の都に飛んで行きました。そして、劉の所に行きました。
 李は、象牙の置物を劉に渡しました。

「劉さん。これと同じ物、作ってくれませんか?」
「・・・いくらで、いつまでに?」
「銀貨千百枚で、今日から三ヶ月後までにです。ただし、途中で作れなくなったら、作りかけた物と、銀貨百枚を頂きたいのです」
「・・・まあ、いいだろう。あんたは信用がある。いいよ」
「ありがとうございます!」

 それから李は、仲間を増やして、大きな商売をするようになりました。

 それから、都では、契約書は細かく書かれるようになりました。

≪完≫

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Last-modified: 2008-02-01 (金) 09:52:26 (4979d)

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