中編文学

悪太郎

  • 著:funyara9(滝川雅晴)
  • 作成日:2007/06/16

本編

その一 悪太郎

 昔々、悪太郎という、体の大きな男がおりました。
 悪太郎は、小さいときは金太郎という名前でした。それが、わんぱくで悪戯ばかりするので、皆からはいつの間にか、"悪太郎"と呼ばれておりました。

 悪太郎には子分がおりました。名を抜作といいました。

 悪太郎は、抜作を連れて道を歩いておりました。
 悪太郎は、抜作に言いました。

「おい、抜作。あの飴屋の樽が見えるか」
「へい、見えますね」
「お前、あの樽をかっぱらってこい」
「えっ!兄貴、あれ、すごく重そうですぜ」
「なあに、へっちゃらさ。いいか、よく聞け。あれを取ったら、この道沿いに走れ。そうしたら、おれが馬車を出して追いつくからな。樽を馬車に乗せたら、そのままとんずらよ」
「へえ、なるほどね!で、兄貴、馬車はどこにあるんで?」
「それを今から、かっぱらって来るのよ。ちょっと待ってな」


 しばらくすると、悪太郎は馬車に乗って現れました。
「わぁ!兄貴、ほんとにかっぱらって来たよ」
「へへっ、どうだい!いい馬だろ。よし、抜作。次はお前の番だぞ」
「へ、へい・・・」

 抜作は、おそるおそる、飴屋の後ろに回りこみました。
 飴屋の男は、振り返ると、抜作をにらみ付けました。

「えへへ、どうも。いい匂いなもんで」
「一本五文ですよ。これがねえ、またうまいんですよ。一本どうです?」
「あー、考えときます。どころであのー、あそこの看板には、何て書いてますかね?」
「ああ、あれですか。"八百屋"と書いてますね」

「ご免!」
「うわっ! こら待て、泥棒!」
 抜作は、飴屋の樽を両手でつかむと、必死な顔で道沿いに走りました。
「ハアッ、ハアッ、兄貴!」

 抜作の後ろから、馬車に乗った悪太郎が、ドドッ、ドドッ、とやってきました。悪太郎は、顔に仮面をかぶっておりました。
「抜作! 後ろに乗せろ!」


「へい!」
「よし、いいぞ! それじゃな!」
「あーっ、兄貴! おらも乗せてくれよ! ハアッ、ハアッ」
「お前はおれの身代わりだ!つかまっても、おれの事は言うなよ!言ったら殺すぞ!わかったな!」
「兄貴〜! 待って〜! あーっ!」

 抜作は、飴屋の男につかまりました。
「ハアッ、ハアッ、この盗人め!」
「アイタッ!」
 抜作は、腕をつかまれると、飴屋の男に叩かれました。

 抜作は、牢屋に入れられました。
 苦しそうに、うんうんうなっておりました。
「あんちくしょう、兄貴の野郎め! ウウッ・・・」

 幾日かたった頃、抜作は牢屋から出てきました。
 抜作は、ふらふらと町中を歩いておりました。抜作は、悪太郎が住む荒(あば)ら屋に向かいました。

「兄貴〜!」
 荒ら屋からは、何の返事もありませんでした。
「兄貴、どこにいっちまったんだよ。あ〜、腹が減ったな。疲れた・・・」
 抜作は、荒ら屋に入ると、そのままぐっすりと眠りにつきました。


 しばらくすると、悪太郎が荒ら屋に帰ってきました。
 悪太郎はにやりとすると、足の先を抜作の鼻に付けてこそばしました。

「ふぃっくしょん! あっ、兄貴!」
「抜作!出てきたか!生きてたか!ハッハッハッ」
「兄貴、ひどいじゃないか! ずいぶんひどい目にあっちまったよ」
「それでもおれの所に来るとは、お前さんどうかしてるぜ」
「おいらは兄貴がいないとだめなんだ。兄貴みたいに強く生きてえんだ」
「おれなんかを目指すと、ろくな事はねえぜ。それよりお前、出所祝いだ。この間の飴がいい値で売れたんだぜ。何か食いにいくぞ。おごりだ」
「ありがたい〜」

 悪太郎と抜作は、夜の町に出かけて行きました。


 ある日、悪太郎は、抜作を連れて道を歩いておりました。
 悪太郎は、抜作に言いました。

「おい、抜作。あの金持ちの家が見えるか」
「へい、見えますね」
「見たところ、あそこには大分金がある。それを頂こうと思うんだが」
「兄貴、ここは人が大勢住んでますぜ。ちょっと危ないんでないすか?」
「弓で火を放つのよ」
「え〜っ!」
「火事になれば、人が家から出ていくだろう。そこでおれが家の中に入って、金を頂戴するわけさ」
「金の場所はわかるので?」
「見たところ、ここの主人は奥のある部屋への出入りが多い。そこが狙い目よ」
「へえ、なるほどね!で兄貴、弓はどこにあるんで?」
「今から買いにいくぞ」


 夜がふけた頃、悪太郎と抜作は、金持ちの家の庭に、こっそりともぐりこみました。
 悪太郎と抜作は弓矢を持っていました。

「よし、やるぞ」
 悪太郎は火を付けて、矢の先に火をともしました。

『ビュン! ビュン! ビュン!』

 火の付いた矢は、金持ちの家にどんどんと突き刺さりました。みるみるうちに、火は燃え広がっていきました。

「うわー!」
「キャー!」

 家の中から、次々と人が飛び出していきました。

「よし、抜作!おれは今からあの部屋に入るぞ。おまえはここで見張ってろ。火消しの連中が来たら、口笛を鳴らせ」
「へ、へい!」


 悪太郎は、燃え盛る部屋に入りました。襖(ふすま)という襖を全て開くと、乱暴に中を探りました。

「金はどこじゃ!」

 最後の大きな襖を開けると、娘がうずくまっておりました。

「うおっ! こんな所に・・・ おい、女!金はどこだ!」

 悪太郎は、刀で娘をおどしました。

 娘は、弱々しく首を横に振りました。

 火の付いた天井がはげ抜けて、部屋の中に落ちてきました。

「ええい、時間がない! こいっ!」

 悪太郎は、娘の手を取って部屋から抜け出しました。

『ピーッ』
 抜作は口笛を鳴らしました。

「抜作!ずらかるぞ!」
「へい!兄貴、この女は?」
「後だ」


 荒ら屋で、娘は手を縛られておりました。
 悪太郎は、娘に言いました。
「お前は、あの家のなんだ?」

「・・・二号です」

「長いのか?」
「二月ほどです」
「あそこの主人がよく出入りしていたが、何をしてた?」

「・・・顔を近づけてさわられました。拒むといつも、襖の中に入れられました」
「ははあ、そういうことか。お前さん、気に入られてたようだな。どこから来た?」
「田舎の農村です」
「売られたのか?」

「・・・親の為です」
「どうやら、帰る所がないらしいな。主人の大事な親族なら、身代金をせびるとこだがな。ここで生きるか?」

「・・・一度死んだ身です。置かせて頂けるなら」
「よし決めた! お前の名前は?」
「おとよです」


 それから、おとよは荒ら屋で暮らすようになりました。
 悪太郎と抜作とおとよは、三人で泥棒をするようになりました。

 悪太郎は、おとよに言いました。
「おい、おとよ。お前の男の着物も、板についてきたな」
「いやあねえ。これでも一応、女ですから」
「本当か?それっ」
 悪太郎は、おとよの体をつつきました。
「いやっ!何すんだい!」
「ハハハ、わかったわかった。ちょっとは女が残ってるようだな」
 横で見ていた抜作は、同じようにおとよの体をつつきました。
『バシッ』
 おとよは、抜作のほほを思い切り叩きました。
「いてて・・・! 何でおいらの時はこうなんだい・・・」
「ハハハ、抜作!お前の面は下心が丸見えだぜ」
「アハハ!」


 夜更けの森で、三人は大きな屋敷を見ていました。

「抜作、おとよ。あの屋敷の連中はな、俺たちと同じ泥棒稼業よ。前の所と違って、ここには金目の物がたんまりあるはずだ」
「そうだろうけど、見て!あの見張りの数。ちょっと無理なんじゃない?」
「おら、自信ねえだ」
「人手が要る。最低でも腕がいいのが二人ほどな。弓と刀の腕の立つ奴を探すぞ」


 次の日、三人は町に出かけ、荒れくれ男たちのたむろする所に行きました。
 悪太郎は、刀を持つ大きな体の男に言いました。

「お前、雇われる気はないか?」
「・・・いくらだ」
「お前の腕を見てからだな」

 その男は、ぬっと立ち上がると、鞘から刀を出し、机の上の酒樽を切り付けました。

『バシャ!』

 酒は当たり一面に飛び散りました。
「おー、こりゃなかなか早い」

 そばに座っていた小さな体の男は、顔に付いた酒をふいて立ち上がりました。
 その男は、鞘から刀を出し、机の上の残った酒樽を五回続けて切り付けました。

『バシャバシャバシャ!』

 酒は当たり一面に飛び散り、最後の樽のかけらが大きな男の頭に当たりました。

「素晴らしい!こんなに早いのには初めてお目にかかった。ちょと向こうで話さねえか?」


 一方、おとよと抜作は、弓矢を持つ男に言いました。

「あの、ちょっと仕事の話なんだけどさ。その弓矢にね」
「何の仕事だ?」
「腕を見せてもらったら話すよ」

 男は、紀州蜜柑(きしゅうみかん)を手にとって、抜作の頭の上に置きました。

「あの、ちょっと・・・」
「動くなよ」

 男は、離れた所に立つと、弓を引き、抜作に向かって矢を放ちました。

『ビュン!』
「・・・」

 矢は、紀州蜜柑の真ん中を貫いて、向こうの壁に突き刺さりました。


 荒ら屋に、悪太郎と抜作とおとよと、男二人が集まっていました。
 悪太郎は、抜作とおとよに言いました。

「刀の達人"閃光"と、弓矢の達人"矢島"だ。今日から仲間になってもらった。さっそく作戦といくぞ」

 悪太郎は、墨で書いた地図を広げました。

「まずは火を放つのよ。三方からな。お前はここ、お前はここ、お前はここからな。矢島は見張りの十人をかたずけてくれ。それから、おれと閃光が家に刀で入っていく。中に人がいたら容赦するな。矢島は外から敵を弓矢で対応してくれ。抜作とおとよは馬車で待機してろ。物が見つかったらおれが口笛を鳴らす。そしたら抜作とおとよは馬車で家の近くまで来い。おれと閃光、抜作とおとよで物を馬車に運ぶ。終わったら五人とも乗ってずらかる」
「分け前は?」
「まあ、五人だから、五分の一というところだな」
「いつ?」
「明後日の晩だ。雨で無ければな」


 明後日の晩、五人は屋敷に向かっていきました。

 悪太郎は、合図を出しました。

 火の付いた矢が、次々と屋敷に向かって飛んでいきました。

『ビュン! ビュン! ビュン!』

 火の付いた矢は、屋敷にどんどんと突き刺さりました。みるみるうちに、火は燃え広がっていきました。

「うわー!」
「おー!」
「キャー!」

 家の中から、次々と人が飛び出していきました。


 見張りの者達が動きはじめました。

「おい、火を消せ!」
「矢はあそこからだ! 殺せ!」

『ビュン! ビュン! ビュン!』

「うお!」
「ぎゃぁ!」

 見張りの者は、矢島の矢で次々と倒れていきました。

「閃光、いくぞ!」

 悪太郎と閃光は、刀を振りかざして家の中に入っていきました。

「何だお前らは!」
「おい、金目の物はどこだ!」
「し、知らない!」
「殺すぞ!」
「ひい!・・・ こ、この床下です」

 閃光は床を刀で切り付けました。

『ガタッ』

 床下から、金目の物がわんさかと現れました。

「そうか、ハハッ。 ご苦労、ご免!」
「ぎゃ!」


『ピーッ』

 悪太郎は口笛を鳴らしました。

『ドドッ ドドッ』

 抜作とおとよの乗った馬車が、屋敷につきました。

「抜作、おとよ、手伝え!」

 屋敷から、金目の物が次々に運ばれていきました。

「よし、ずらかるぞ! 矢島〜! 行くぞ!」

 五人が乗った馬車は森の中に消えていきました。


 森の空き地で、五人は焚き火の周りに座っておりました。

 悪太郎は言いました。
「ハハハッ!大漁、大漁。まあ、酒でも飲もうや」

 悪太郎は皆に酒を注ぎました。
「こら、抜作!おとよ!お前らも注げ」

「ハア〜、これでしばらく、楽に暮らせそうだ」
「床下に隠してるとは思わなかったな」
「ああ、あのじじいが言わなきゃ、手ぶらになるとこだったぜ」
「何人かは逃げうせたな。しばらくは町にいない方がよさそうだな」
「逃げたのは女だけじゃなかったか?」
「さあ、分からんね」
「まあ、しばらくは用心するこったな。なんせこの量だ。うまく隠さないとな」

 悪太郎は、ぼうっとした目で金目の物を見つめました。
 五人とも、眠そうにうとうととし出しました。

 悪太郎は、起き上がると抜作とおとよを呼んで、ヒソヒソと話しました。


「おい、よく聞け。閃光と矢島を殺すぞ」
「えっ?」
「どうして?」
「あの腕の立つ者達だ。あいつらがたばねて襲って来てみろ。おれたち三人はあっという間に殺されてしまうぞ」
「・・・」
「おい、いいか。あの二人にもっと酒を飲ませろ。すると小便に行くはずだ。その時におれが後ろから刺す。わかったか」
「へ、へい・・・」
「はい・・・」

 抜作とおとよは、閃光と矢島に次々と酒を注ぎました。
「へへ、もういいよ」
「まあ、そう言わずに」
「どうぞ〜」

 閃光は、ふらふらと立ち上がりました。
「ちょっと小便」
 悪太郎も立ち上がりました。
「おれも。連れションだ」


 空き地から少し離れた場所で、閃光は小便をしておりました。

「ふー、飲みすぎた」
「あー、大分酔ったな。あれ、おれのは出ねえや。待ってるよ」

 悪太郎は、閃光の後ろに回り込みました。

 すかさず、悪太郎は鞘から刀を出すと、閃光の背中に切り付けました。

「ぐわっ!」

 閃光は、鞘から刀を出して振り返りました。

「おのれ・・・」

『ドサッ』

 閃光は、うつぶせのまま倒れこみました。


 しばらくして、悪太郎は空き地に戻ってきました。
 矢島は悪太郎に言いました。

「あれ、閃光は?」
「あいつ、げろを吐いてるよ。飲みすぎたようだな。ハハハ」
「・・・お前、その血はなんだ?」

 矢島は弓矢を持って立ち上がりました。
 悪太郎は鞘から刀を出すと、矢島に切り付けました。

「うわっ!」

 矢島の腕から血が流れました。

「おのれっ!」

 矢島は走って逃げ出しました。
 悪太郎は弓で矢を矢島に向かって放ちました。

『ビュン! ビュン!』

「ぐわっ!」

 矢島の背に矢が二本刺さりました。
 矢島はそのまま森の奥に消えていきました。


「ちっ、逃げやがった。あれだけの深手だ。長くはないだろう」

 悪太郎と抜作とおとよは、金目の物を隠した後、荒ら屋に帰りました。

「あー、疲れたな。おれはしばらくは働かんぞ」
「兄貴、働かないって、泥棒をしばらく休むってことですかい?」
「決まってるじゃないか。あれだけありゃあ、五年は食っていけるだろ」

 それから一年ほど、三人は盗んだ金を使いながら、気ままに暮らしました。

 ある日、悪太郎はおとよに言いました。
「おい、おとよ」
「はい?」
「お前、おれと一緒になるか」
 おとよは顔を赤くしました。

「・・・もらってくれるの?」
「じゃあ、おれでいいってことだな」
「・・・」
「よし、決めた!今日から一緒になるぞ。今日は抜作が出かけてる。丁度いい、二人で居酒屋に行こう」
「それが結婚式なんかじゃいやよ」
「まあ、あわてるな。ハハハ、それなりにちゃんとしてやるからな」


 悪太郎は、おとよを連れて居酒屋に向かいました。
 悪太郎とおとよは、手をつなぎ、肩を寄り添いながら歩いておりました。
 おとよは、うっとりとした顔をしておりました。

「お前は男を知らんのか?」
「わたしはあんたしか知らないよ」
「うそつけ、この」
「ほんとよ、いやねえ」
「ハハハ」

『ビュッ』

 突然、弓矢が悪太郎の胸に刺さりました。

「うぐっ」
「あんた!」

 目の前に、矢島がおりました。矢島は、倒れこんだ悪太郎を見るとそのままどこかに走り去りました。

「あんた! あんた〜!」
「おとよ・・・ 抜作を頼む・・・」

 悪太郎は、目を閉じると、二度と動かなくなりました。

その二 金太郎

 悪太郎は、ハッと我に返りました。

「・・・ここはどこだ?」

 あたりは真っ暗闇でした。

 ふと、周りを見渡すと、白い服を着た人の行列の姿が、ぼうっと見えました。

「おー、人がいた」

 悪太郎は、行列の所に行きました。

「なんじゃ、この連中は?やけに顔色が悪いな。ここは牢屋か?」

 悪太郎は、行列に割り込んで入りました。

「悪いな。ちょっと、おやじさん。この行列はどこに行くので?」
「閻魔大王の所じゃよ」
「閻魔? それは死んだ時に会うんじゃ?」
「お前さん、死んだんじゃないのかね?」
「えっ、おれが?・・・ あっ、そういえば!」

 悪太郎は、自分が白い服を着ている事に気付きました。胸に手をやると、矢で傷ついた跡がありました。

「・・・思い出した。・・・最悪だ! ・・・畜生、おのれ矢島め! おとよ・・・」


 前を見ると、閻魔大王の姿が見えました。
 閻魔大王は、みすぼらしい老人に向かっていいました。

「お前は妻も子供も無く、貧しい暮らしを送ったが、まじめに生きていた。だが最後に悪党に殺されたな」
「はい、その通りで」
「では、今度生まれる時は、殺される事がなく、家族を持つ人生を歩むといい。それでいいか?」
「はい、結構です」

 悪太郎は、それをじっと見ておりました。

 しばらくすると、悪太郎の番になりました。

「ああ閻魔大王様、わたしは最後に悪党に殺されたんです!」
「そのようだな」
「ですので、今度生まれる時は、殺される事がなく、おとよと一緒になりたいんです」
「ちょっと待て」

 閻魔大王は、悪太郎をじろりとにらみました。

「お前は相当悪い事をしてきたな。泥棒、放火、人殺し」
「あは、いやあ、どうも恵まれてなかったんで・・・しかたがなかったんですよ」
「だーめ。お前は今度生まれる時は、お前がやった悪い事が、お前に同じようにふりかかる。放火され、泥棒され、殺されかける」
「そんな〜・・・」
「ただし、お前は一つだけいい事をしたな」
「はあ?」
「おとよを救ったな。そしてそれを愛した」
「ええ、まあ・・・」
「お前は抜作とおとよの子供として生まれるのだ。おとよだけがお前の味方だ。お前を無条件に愛してくれるだろう」
「ええ〜! 抜作だけはご勘弁を・・・」
「たわけ!」


 悪太郎は、抜作とおとよの子供として生まれました。

「おぎゃー、おぎゃー」

 おとよは赤子を抱きしめました。
「なんてかわいい子!」
 赤子はおとよに抱きつくと、泣き止みました。

 抜作が赤子の頭をなでました。
「かわいいのー」
「おぎゃー!おぎゃー!」
 赤子はものすごい顔で泣き出しました。


 赤子は名前を金太郎と付けられました。
 金太郎は、すくすくと育ち、少年に成長しました。

「おかあ、ただいま!」
「おかえり、金太郎」
「腹減ったよ」
「まんじゅうを出しといたから食べなさい」
「は〜い」

 金太郎は、もぐもぐとまんじゅうを食べておりました。
 抜作は金太郎に言いました。

「おい、金太郎!ちょっと手伝ってくれ」
「いやだね〜」
「こいつ、おとうの言う事が聞けねえってのか!」
「あんた、金太郎は寺小屋行って疲れてるのよ。休ませておやんなさいよ」
「うるさいっ!」

 抜作は、金太郎のまんじゅうをぶんどりました。

「お前に食う資格はねえ!手伝えってんだよ、こら!」
「わかったよ・・・」

 抜作は、金太郎をつかまえると、足で蹴りました。

「いてっ!」
「さっさと行けってんだ、この!」


 休みの日、金太郎は町を歩いておりました。
 道すがら、矢島が通り過ぎました。
 矢島は振り返り、金太郎を見つめました。

「・・・はて、あいつは悪太郎そっくりだな。もしや、やつの子か?」

 矢島は、金太郎の後をつけました。
 金太郎は荒ら屋に帰りました。

 矢島は、荒ら屋をにらみながらつぶやきました。

「やはりな。悪太郎め!背中の傷がうずくぜ。根絶やしにしてやるぜ」


 その日の夜、矢島は荒ら屋の近くにやってきました。
 矢島は矢に火を付けると、荒ら屋に向かって矢を放ちました。

『ビュン! ビュン!』

 火の付いた矢は、荒ら屋にどんどんと突き刺さりました。みるみるうちに、火は燃え広がっていきました。

「うわー!」
「キャー!」

 家の中から、抜作とおとよと金太郎が飛び出しました。

 三人の目の前に、矢島が仁王立ちをしておりました。

「うわっ、矢島!」

 矢島は、抜作に向かって矢を放ちました。

『ビュン!』
「ぐわっ!」

 抜作はばったりと地面に倒れこみました。

「おとう!」


 矢島は、金太郎に向かって矢を放ちました。

『ビュン!』
「ぎゃっ!」
「おかあ!」

 おとよは、金太郎をかばいました。矢がおとよの体に突き刺さりました。

 矢島は、もう1本矢を放ちました。

『ビュン!』
「うっ!」
「おかあ!おかあ!」

 おとよは、金太郎を抱きしめながら倒れこみました。

「火事だ!火事だ!」
 火消しの人々が荒ら屋に近づいてきました。

「ちぇっ」

 矢島はその場から逃げ去りました。


「おかあ!おかあ!うっうっ、死なないで!」
「・・・金太郎、無事でよかった。・・・ これを・・・」

 おとよは、金太郎に地図を渡しました。

「・・・ここに金があるわ・・・ 金太郎、これを持って逃げなさい・・・」
「おかあ!死んじゃやだ!おかあ!」

 おとよは、金太郎の顔をなでながら言いました。

「・・・生まれて来てくれて、ありがとう・・・ 金太郎と暮らせて、幸せだったわ・・・ お前のことを、ずっと見守ってるからね・・・」
「おかあ!おかあ!」


 金太郎は、抜作とおとよの墓を作りました。
 合唱すると、抜作の刀と金の入った荷物を持って、その場を去りました。

 金太郎は、この町を離れ、隣の町に向かって行きました。
 道中、金太郎は金を取り出すと、大きな木の下に半分を埋めました。

 隣の町に着きました。
 しばらく歩いていると、荒ら屋がありました。
 金太郎は荒ら屋に入りました。

「・・・誰も住んでないみたいだ」

 金太郎は横になって休みました。


 その夜、ざんばら髪の目がぎらぎらした男が、荒ら屋に入ってきました。

「うわっ、誰だこいつ!」

 男は、金太郎をにらみつけました。
 男は、刀を取り出すと、金太郎を足で蹴りました。

「おいっ!」

「わっ、す、すみません!」

 金太郎は目を覚ますと、土下座をしました。

「ここは人が住んでいないと思い、寝ておりました。今すぐ出て行きます」
「ははあ、そういうことか。おい、金は持ってるか?」
「いえ・・・」
「その荷物はなんだ?見せろ」

 男は、乱暴に荷物を開けました。

「へへへ、なんだお前、すごい金じゃないか!これはもらっておくぜ」
「困ります!」

 男は、刀を金太郎に突きつけて言いました。

「じゃあ、死んでもらうしかないな」
「・・・分かりました、差し上げます。その代わり、お願いがあります。ここに住まわせて下さい!」
「なに?」


 金太郎は、それまでの出来事を男に話しました。

「・・・そうか。親が殺されて、その矢島とかいう奴から逃げて来た訳だな。なんで矢島は襲って来たんだ?」
「さあ、分かりません。ですがおとうは矢島の事を知っていて、恐れていたようです」
「そうか。まあ、何か恨みでもあったんだろう。その町には戻らない方がいいな。それでお前は、天涯孤独の身という訳か」
「・・・はい」
「お前の名前は?」
「金太郎です。あなたは?」
「平六だ。おれはな、泥棒で身を立てているのよ。おれの子分として働くのなら、ここに置いてやってもいいぜ」
「ぜひ、お願いします!」
「この金はもらっとくぜ。いい道具が買えるぜ、イヒヒ」


 ある日、平六は、金太郎を連れて道を歩いておりました。
 平六は、金太郎に言いました。

「おい、金太郎。あの飴屋の樽が見えるか」
「はい」
「お前、あの樽をかっぱらってこい」
「えっ!平六さん、あれ、すごく重そうですよ」
「おい、おれのことは兄貴と呼べ! いいか、よく聞け。あれを取ったら、この道沿いに走れ。そうしたら、おれが馬車を出して追いつくからな。樽を馬車に乗せたら、そのままとんずらよ」
「あ、はい。兄貴、馬車はどこにあるんですか?」
「それを今から買って来る。ちょっと待ってな」


 しばらくすると、平六は馬車に乗って現れました。
「へへっ、どうだい!いい馬だろ。よし、金太郎。次はお前の番だぞ」
「は、はい・・・」

 金太郎は、おそるおそる、飴屋の後ろに回りこみました。
 飴屋の男は、振り返ると、金太郎をにらみ付けました。

「えへへ、どうも。いい匂いなもんで」
「一本十文ですよ。これがねえ、またうまいんですよ。一本どうです?」
「あー、考えときます。どころであのー、あそこの看板には、何て書いてますかね?」
「ああ、あれですか。"薬屋"と書いてますね」

「ご免!」
「うわっ! こら待て、泥棒!」
 金太郎は、飴屋の樽を両手でつかむと、必死な顔で道沿いに走りました。
「ハアッ、ハアッ、兄貴!」

 金太郎の後ろから、馬車に乗った平六が、ドドッ、ドドッ、とやってきました。平六は、顔に仮面をかぶっておりました。

「金太郎! 乗せろ!」


「はい!」
「よし! それじゃな!」
「あーっ、兄貴! 乗せてよ! ハアッ、ハアッ」
「お前はおれの身代わりだ!つかまっても、おれの事は言うなよ!言ったら殺すぞ!わかったな!」
「兄貴〜! 待って〜! あーっ!」

 抜作は、飴屋の男につかまりました。
「ハアッ、ハアッ、この盗人め!」
「アイタッ!」
 金太郎は、腕をつかまれると、飴屋の男に叩かれました。

 金太郎は、牢屋に入れられました。
 苦しそうに、うんうんうなっておりました。
「あんちくしょう、兄貴の野郎め! ウウッ・・・」

 幾日かたった頃、金太郎は牢屋から出てきました。
 金太郎は、ふらふらと町中を歩いておりました。金太郎は、平六が住む荒ら屋に向かいました。

「兄貴〜!」
 荒ら屋からは、何の返事もありませんでした。
「兄貴、どこにいっちまったんだよ。あ〜、腹が減ったな。疲れた・・・」
 金太郎は、荒ら屋に入ると、そのままぐっすりと眠りにつきました。


 しばらくすると、平六が荒ら屋に帰ってきました。
 平六はにやりとすると、鞘の先を抜作の鼻に付けてこそばしました。
「ふぃっくしょん! あっ、兄貴!」
「金太郎!出てきたか!生きてたか!ハッハッハッ」
「兄貴、ひどいじゃないか! ずいぶんひどい目にあっちまったよ」
「あん時はしかたなかったんだよ。それよりお前、出所祝いだ。この間の飴がいい値で売れたんだぜ。何か食いにいくぞ。おごりだ」
 平六と金太郎は、夜の町に出かけて行きました。


 幾年かが過ぎ、金太郎は大人に成長しておりました。
 金太郎は、平六と共に、小さな泥棒を続けながら暮らしておりました。

 ある日、矢島が町にやってきました。
 矢島は道行く人に、人相絵を見せておりました。

「こんな顔をした奴は知らねえかい?昔は悪太郎と言われていた奴の息子なんだが」
「いや、知らないねえ」
「この町で見たとうわさで聞いたんだがね。どうも」

 ふと、矢島は遠くのほうで、金太郎が道を歩いている姿を見ました。

「・・・見つけたぞ」

 矢島は、金太郎の後をつけました。
 矢島は、荒ら屋をにらみながらつぶやきました。

「・・・覚悟しな」


 その日の夜、矢島は荒ら屋の近くにやってきました。
 矢島は矢に火を付けると、荒ら屋に向かって矢を放ちました。

『ビュン! ビュン!』

 火の付いた矢は、荒ら屋にどんどんと突き刺さりました。みるみるうちに、火は燃え広がっていきました。

「うわー!」

 家の中から、平六と金太郎が飛び出しました。

 二人の目の前に、矢島が仁王立ちをしておりました。

「うわっ!誰だお前は!」

 矢島は、平六に向かって矢を放ちました。

『ビュン!』
「ぐわっ!」

 平六は、ばったりと地面に倒れこみました。

「兄貴!」


 矢島は、金太郎に近づいて言いました。

「お前を殺すだけではものたりん!」

 矢島は、鞘の刀を抜いて、金太郎の目に切り付けました。

「うぎゃっ!」

 矢島は、倒れこんだ金太郎の顔に、燃え盛る火をあぶせました。

「うわー!」

「お前はこれで目が見えん。顔は焼けただれだ。生きながら地獄を見るんだな!」

 そういうと、矢島は去っていきました。


 幾日かすぎた頃、金太郎は、橋の途中に座っておりました。
 真っ赤な顔で、目はつぶれておりました。

「気持ち悪いわねえ」
「あれ、乞食よ」
「まるで疫病神みたい」

 道行く人は、金太郎を避けて通り過ぎておりました。

 夜になると、金太郎は橋の下におりて、川に顔を付けました。
 しばらくすると、顔を上げました。

「ぷはーっ!あー、今日も死ねない・・・ 死ぬのが怖い! だれか殺してくれ!うっうっ」

 金太郎は、月に向かって涙を流しておりました。


 ある日、橋の上にお坊さんが通りかかりました。
 お坊さんは金太郎を見ると、近づいて言いました。

「あわれな方。あなたのために祈りを捧げましょう」
 お坊さんは金太郎に祈りを捧げました。

「のーまくさんまんだー ばーざらだんせんだー まーかろしゃーだー そわたやうんたらた かんまん・・・」

 金太郎は、何か暖かいものにつつみ込まれました。

「あ・・・ ありがとうございます・・・」

 金太郎は、何か自分を愛してくれるものにつつみ込まれました。

「あ・・・ あ・・・」

 金太郎は、涙をぼろぼろとこぼしました。

「いとおしい・・・ 美しい・・・」

 金太郎は、周りの空気や世界が、とても生き生きしているように感じました。

 お坊さんは金太郎にお金を渡して言いました。

「生き抜くんですよ。またここを通ります。では」


 次の日、金太郎は橋の上で、一心に祈りを捧げておりました。

「のーまくさんまんだー ばーざらだんせんだー まーかろしゃーだー そわたやうんたらた かんまん・・・」

 その声に、町の人はじっと聞いておりました。

 一人の女が金太郎に近づいて言いました。

「あのう、私の為に祈って頂けませんか?」
「ええ、喜んで」

 金太郎は、女に祈りを捧げました。

「のーまくさんまんだー・・・」

 女は、目をつむって立ったまま、ぼろぼろと涙を流しました。

「ありがとうございます。生きる勇気がわいてきました」

 そういうと、女は金太郎にお金を渡しました。


 幾日かがすぎた頃、橋の上に人だかりができておりました。
 金太郎の前には、食べ物や飲み物が置かれ、お金がお皿に置かれておりました。

 人々は金太郎の前に並び、一心に祈りを聞いておりました。

「のーまくさんまんだー ばーざらだんせんだー・・・」

 お坊さんが橋に近づいてきました。
 お坊さんは、金太郎の前に、大勢の人が並んでいるのを見て驚きました。

「はて、何があったものか」

 お坊さんは町の人に言いました。

「あのう、あそこの橋の上で、何があったんですか?」
「ああ、あれは生き神様ですよ。乞食の姿をしてますがね、あの祈りを聞いたら、ありがたい気持ちになるんですよ」

 お坊さんは、金太郎の前に立ちました。

「のーまくさんまんだー ばーざらだんせんだー・・・」

 お坊さんは、目をつむって立ったまま、ぼろぼろと涙を流しました。

「なんという響き!まさに生きる不動明王様だ」

 お坊さんは、金太郎に言いました。

「素晴らしいお方。わたしの寺にお越し頂けませんでしょうか」


 幾年かの後、金太郎はお寺で護摩(ごま)を行い、祈りを捧げておりました。
 大勢の人々が、金太郎の祈りを聞きに来ておりました。

「のーまくさんまんだー ばーざらだんせんだー まーかろしゃーだー そわたやうんたらた かんまん・・・」

 金太郎の赤い顔は、不動明王のように勇ましく、神々しく光っておりました。


 金太郎は年老いて、病に倒れておりました。
 お坊さんは、金太郎の世話をしておりました。
 金太郎は、お坊さんの手を取って言いました。

「もうすぐ、お迎えが来るようです。私は、橋であなたにに会うまでは、とても不幸な人生を送っていました。ですがあなたに教えてもらい、生き抜くことが出来ました。 私の不幸だった人生も、今から思えば、因果であったと感じる事が出来ます。 あなたに会えてよかった。 私は人を愛する事、世界を愛する事を知りました。幸せでした・・・」

 お坊さんは、金太郎の手を握り返しました。

「ああ、おかあ!おかあ!」

 金太郎の前に、おとよが現れました。おとよは金太郎の手を取ると、暖かい光につつまれました。

 金太郎は息をひきとりました。
 とても安らかな顔をしておりました。


 その後、金太郎の姿を彫った像が作られました。

 お寺に置かれ、道行く人が像に祈りを捧げていきました。

 お寺には、いつまでもさわやかな風が吹き続けておりました。

≪完≫

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Last-modified: 2008-02-01 (金) 10:03:41 (4784d)

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